『魔女の宅急便 サントラ音楽集』レビュー

久石譲×宮崎駿監督作品・第4作『魔女の宅急便』

『魔女の宅急便 サントラ音楽集』

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アコースティックなサウンドを中心に、メロディー豊かに描かれた魔女の宅急便の世界。

 

発売日:1989.8.10(発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ)

 

Produced by Joe Hisaishi

作編曲:久石譲

編曲・オーケストレーション:平部やよい

 

<レビュー>

①晴れた日に…

 冒頭のオカリナの音色が印象的な、牧歌的雰囲気のアレンジ。原曲はイメージアルバムの「世界って広いわ」のメロディー。

 魔女の宅急便のBGMとしては、「海が見える街」(「風の丘」)のメロディーが有名すぎて、そちらがメインテーマだと誤解している人も多いかもしれないが、実際には、映画全体のメインテーマ的役割を担っていたのが、この「晴れた日に…」のメロディー。

 劇中の様々なシーンでアレンジを変えつつ、何度も使用されていた。

 3拍子のワルツのリズムにのって、温かくて優しいメロディーが奏でられる良曲。この曲は映画冒頭の、草むらで横になってラジオを聴いていたキキが、村の道を走って、家に戻るシーンで流れていた。

 この3拍子のメロディーだが、その旋律の曲名として、「世界って広いわ」「晴れた日に…」「空飛ぶ宅急便」etc.とたくさんあって、ややこしいので、以後このレビュー記事内では“メインテーマ”もしくは“メインテーマのワルツのメロディー”と呼ぶことにする。

 

②旅立ち

 イメージアルバムの「かあさんのホウキ」のメロディーをもとにした曲。ゆったりとした抒情的な旋律が魅力的な作品。

 「旅立ち」では、ピアノ→バンドネオン→ストリングス…と様々な音色によって、主旋律が演奏されているのが魅力的。

 曲名通り、キキが故郷の村を旅立つシーンのBGMとして使用された。

 そのシーンの、キキが魔法の力で、ホウキに乗って浮かび上がるカットのところで、曲調が大きく変わるのが聴きどころ。ファンタスティックなムードを盛り上げるオーケストレーションが素晴らしい。

 この「魔女の宅急便 サントラ音楽集」は、映画のシーンの順番通りに曲が収録されているので、聴いていると、自然と映画の物語やシーンが頭に浮かんでくる。

 映画のファンの方にとっても、とても楽しいアルバムになっていると言える。

 

③海の見える街

 列車の屋根から飛び立って、海の上を通りコリコの街へ行くシーンから、街の大通りに飛んで行って、交通をメチャクチャにしてしまうシーンのBGM

 主に2つのモチーフが使われている。

 1つはイメージアルバムの「風の丘」。もう一つは同「ナンパ通り」のメロディー。

 特に、前半の「風の丘」をもとにした部分は、魔女の宅急便のBGMの代名詞的な存在で、非常に有名なメロディーとなっている。

 久石さんのコンサートでも、「魔女の宅急便」の曲が取り上げられる際は、このメロディーが演奏される。そうしたことから、「晴れた日に…」のところでも書いたように、この曲が映画のメインテーマだと勘違いしている人も多いかもしれないが、実際には、あくまで映画のワンシーンの曲で、それも劇中でただ一回だけ流れる曲に過ぎない。

 とは言え、非常に魅力的で美しいメロディーは、まさに久石さんの真骨頂と言え、一度聴いたら忘れられないような素晴らしい傑作・名曲であると言える。

 また、後半の舞曲調の「ナンパ通り」のメロディーとアレンジも傑作。

 近年のコンサートでは、“魔女の宅急便の曲”が披露される際は、この「海が見える街」のアレンジ(つまり「風の丘」+「ナンパ通り」)をもとにしたオーケストレーションによって演奏されている。

 

④空とぶ宅急便
メインテーマのアレンジ・バージョン。

やや短めになってはいるが、アレンジや曲調自体は、1曲目「晴れた日に…」とほぼ同じものとなっている。

映画本編では、おしゃぶりを忘れたパン屋のお客さんに、オソノさんに代わってキキがおしゃぶりを届けるシーンで使われた。キキにとっては、初めてのお届けものとなる重要なシーンだが、そこに優しく温かなこのメロディーが流れており、印象深いものとなっている。

 

⑤パン屋の手伝い

キキが、朝のパン屋さんの手伝いをし、屋根裏部屋の掃除を経て、買い物に行くため道に飛び出して行くシーンで流れる曲。

原曲は、イメージアルバムの「パン屋さんの窓」。

実は、映画ではもう一か所、この曲が流れるシーンがある。ニシンとカボチャを作る奥様の家で、パイを焼く手伝いや電球の交換などをキキがするシーンでも流れている。

バンドネオンの音色とタンゴのリズムが印象的な作品。

イメージアルバム版と違い、生オーケストラで演奏しているので、ダイナミズムや広がりのあるサウンドが楽しめる。

 

⑥仕事はじめ

 デザイナーのご婦人からの依頼で、黒猫のぬいぐるみを届けることになったキキが、ホウキで空高く昇り、目的地である岬の方へ飛んで行くシーンで流れる曲。

原曲は、イメージアルバムの「元気になれそう」。

この曲ではシンセサイザーが使われており、アレンジ・曲調は、原曲に忠実なものとなっている。マンドリンを思わせる撥弦楽器と、フルートの音色によるメロディーが愛らしくて親しみやすい。間違えて、手をたたこうとしないように…。

 

⑦身代わりジジ

ホンキートンク・ピアノ風のサウンドが印象的な、陽気な楽曲。

原曲はイメージアルバムの「リリーとジジ」だが、映画本編では意外な使われ方をしていた。

黒猫のぬいぐるみの届け先の家の男の子ケットが、TV番組を見ているシーンで、その番組の劇中曲としてこの曲が使われていた。

実は、映画『魔女の宅急便』の音楽監督(どのシーンに、そういった曲を使うか決める人)は、久石さんではなく、高畑勲さんが担当されたのだが、高畑さんのセンスの良さが感じられる曲の使い方だなと、このシーンを見ながら思ったのを覚えている。

 

⑧ジェフ
この曲は二つの部分から成る。

ファゴット・木管低音楽器の音が印象的な“ジェフのメロディー”とメインテーマのワルツの旋律のアレンジ版から構成。

ぬいぐるみの身代わりとなったジジが、老犬のジェフに助けられて、キキの元へ戻り、パン屋さんに帰って行くシーンのBGMとして使われた。

“ジェフのメロディー”は、まさに老犬のイメージにぴったりなメロディーとサウンドの曲。

 

⑨大忙しのキキ
3
曲目「海が見える街」の後半部で使われたメロディー(イメージアルバム「ナンパ通り」の旋律)のアレンジ・バージョン。

ベースラインやリズム・パートがやや強調されたアレンジとなっており、また、オーケストラ・サウンドで曲全体を盛り上げていく、見事なアレンジとなっている。

重たい箱の荷物(中身はイモ?)を運び、青い屋根の家に急いで飛んで行くシーンで使われた曲。

 

⑩パーティーに間に合わない
がんばって焼き上げた“ニシンとカボチャのパイ”…。ところが、部屋の時計が10分遅れていたため、パーティーの時間に間に合わない危機がキキを襲うシーンで流れる曲。

キキの不安な心情を表すかのような、天候の急変の情景にぴったり合った、緊迫感のある音楽となっている。

ストリングスの刻み音から、9曲目「大忙しのキキ」でも使われた“ナンパ通り”のメロディーの、短調アレンジへの流れが見事。

 

⑪オソノさんのたのみ事…
風邪が治ったキキに、オソノさんが届け物を依頼し、歩いてコポリさんの家に向かうシーンで流れた曲。

2曲目「旅立ち」と同じく、イメージアルバムの「かあさんのホウキ」のメロディーが原曲。

実は、イメージアルバムには、メロディーが全く同じで少しアレンジを変えた「木洩れ陽の路地」という曲もある。その曲名と、このシーンの絵・映像から察するに、「木洩れ陽の路地」は、このオソノさんの頼み事のシーンで使われることを想定して、用意されたアレンジだったのかもしれない。

ゆったりとした抒情的な音楽が、印象深いシーンとなっている。

 

⑫プロペラ自転車
トンボが運転する自転車に、キキが二人乗りをして飛行船を見に海岸へ走って行くシーンで流れる曲。

原曲は、イメージアルバムの「トンボさん」。

原曲に忠実なアレンジで、シンセサイザーで演奏されている。

主に3つの部分から成り、独特なメロディーラインが印象に残る、躍動的な1つ目の部分。

車にひかれそうになりつつも、自転車が空中に浮かぶカットで使われる、オーケストラのトゥッティ系の音によるサスペンス・サウンド。そして、海岸の草むらに落ちて行くカットで流れる、おどけた感じのメロディーが印象的な3つ目の部分で構成されている。

 

⑬とべない!
オーケストラサウンドによる、緊迫感をあおる感じのサスペンス系曲調。短い曲だが、映画音楽での定番の表現の一つ。

おそらく、自分の魔法が弱くなってしまっていることに気付いたキキが、部屋の中でホウキに乗って飛ぼうとするが、上手く飛べず、床に落ちてしまうシーンで使われる予定だったのではないかと思われる曲。

だが、音楽演出担当の高畑勲さんが出した答えは、このシーンには音楽は無しで、ということだった模様。

もし、あのシーンにこの曲が流れていたら、なかなか物々しい感じになっていたかも。

 

⑭傷心のキキ
イメージアルバム「町の夜」が原曲。

切ない感じのメロディーが印象的な曲で、飛べなくなったキキの哀しみに寄り添うかのような旋律が、心に残る。

本編では、トンボが飛行船に乗った喜びを伝えようとキキに電話をするが、キキに電話を切られてしまうシーンで使われていた。

 

⑮ウルスラの小屋へ
メインテーマのワルツのメロディーのバリエーション。

オカリナの音色から始まるアレンジは、1曲目「晴れた日に…」と同じだが、ピチカート・ストリングスを経て、独自の展開がされる。

中間部の旋律が、愛らしい雰囲気で魅力的。

キキが絵描きのウルスラとともに、森の小屋へ向かうシーンで使われることを想定して、作られた曲と思われる。

このまま、映画のシーンに当てはめても良さそうに思えるが、高畑勲さんは、この「ウルスラの小屋へ」ではなく「晴れた日に…」の方を、そのシーンで使用した。

 

⑯神秘なる絵
絵描きウルスラの小屋のシーンで流れる、幻想的で静かな、ニューエイジ・テイストの曲。

映画では2回使われた。まず、森の小屋に到着し、ウルスラの描いた絵をキキが見つめるカットで。そして、ウルスラと一緒に、束の間の休暇をキキが楽しむカットから2人の会話のシーンで使用された。

落ち着いたエレキ・ピアノの音による分散和音にのって、澄んだシンセ・ホイッスル系の音が、透明感のある美しいメロディーを奏でる。

中間部の、サックス系の音色とミニマル・サウンドの組み合わせも秀逸。

リフレインでの、金属系パーカッションの音も神秘的なムードを高めている。

魔女の宅急便のサントラの中で、最もファンタジックな雰囲気を楽しめる、シンセサイザー・サウンドの名曲。

個人的には、魔女の宅急便の音楽の中で一番好きな曲である。

 

⑰暴飛行の自由の冒険号
不安なムードがただよう、サスペンス系の曲。

ストリングスと木管による弱めの音の前半と、ブラスも入った力強いダイナミックな後半に分けられる。

実際の映画では、弱めの音の前半部だけが使用された。

TVに映し出された飛行船と、飛行船にさらわれたトンボを助けに、青い屋根の家を駆け出していくキキのシーンで使われた。

 

⑱おじいさんのデッキブラシ
映画本編では未使用の曲。フル・オーケストラによるスペクタクル系の楽曲。

魔女の宅急便のサントラCDの中では唯一の、アクション的な表現の音楽で、大変ダイナミックでカッコいい曲。

おそらく、キキがデッキブラシに乗って、トンボ救出に向かうシーンを想定して作られた曲と思われるが、高畑勲さんの決定は、このシーンは音楽無しでということだったようだ。

「風の丘」のモチーフのバリエーションもあり、かなり聴き応えのある力作で、クールなオーケストレーションの曲。

未使用はもったいない気もするが、もしあのシーンでこの曲が流れていたら、たしかに仰々しくなりすぎていたかもしれない。

 

⑲デッキブラシでランデブー

メインテーマのワルツのメロディーのバリエーション。映画本編のトンボ救出に成功したキキが、地上に降りて来る大団円のシーンで流れた曲。

曲のテンポが、「晴れた日に…」に比べて、やや速めに演奏されている。

大団円の安心感を与えるコーダ部が素晴らしい、見事なオーケストレーション。

 

⑳ルージュの伝言 

(作詞・作曲・歌:荒井由実、編曲:松任谷正隆)

久石さんが音楽を担当されたジブリ作品において、映画で流れる主題歌に関しては、「ラピュタ」「トトロ」と、久石さんによる作曲作品が続いていたが、「魔女の宅急便」では初めて、久石さんが全く手がけない、主題歌の採用となった。

ユーミンこと荒井由実さん(松任谷由実さん)の「ルージュの伝言」がオープニング主題歌。「やさしさに包まれたなら」がエンディング主題歌となっている。

ユーミン作品に関しては、さほど詳しいわけではないので、詳細な記事は書かないが、OPを彩る「ルージュの伝言」は、キキが持っているラジオから流れているという設定だった。

曲調・歌詞とともに、旅立ったばかりのキキのワクワクしている心境が伝わってくる、名オープニングと言える。

 

㉑やさしさに包まれたなら 

(作詞・作曲・歌:荒井由実、編曲:松任谷正隆)

エンドロールでは、トンボと仲直りしたキキが、人力飛行機に乗るトンボとともに空を飛ぶ、さわやかな後日談が印象的だった。

そのエンディングで流れるのが、この「やさしさに包まれたなら」。

アコースティック・ギターの軽やかな伴奏が心地良い。

作曲は荒井由実さん、編曲は松任谷正隆さんなので、久石さん作曲の劇中音楽とは、曲調・作風は全く異なるが、成長したキキを優しく見守るような、この主題歌の曲調は、映画を観終わった後に爽やかな感動を生み出していると言えるだろう。

久石さんのファンとしては、もしもこの曲を久石さんがアレンジしたとしたら、どんな風になっていただろう?と、勝手に想像したりするのも楽しい。

 

 

<総評>

 ヨーロッパが舞台の『魔女の宅急便』のサントラ。

 その一番の特徴を挙げるとすると、アコースティックなサウンドが主体となっていることだろう。

 久石さんが手がけた「ナウシカ」「ラピュタ」「トトロ」までは、オーケストラを使いつつも、全体の半数、もしくはそれ以上において、シンセサイザー(フェアライト)のサウンドが活躍する楽曲が中心だった。

 ところが、この『魔女の宅急便』ではシンセサイザーの使用度は下がり、オーケストラやバンドネオン・民族楽器などアコースティックな音を中心に仕上げられている。

(一方、「プロペラ自転車」や「神秘なる絵」のようにシンセを使った曲もある)

 そういう意味では、作風に変化が起こった作品と言える。

 久石さんによるジブリ作品の音楽において、まず1度目の大きな作風の変化が感じられる作品となっている。(ちなみに2度目の変化は『もののけ姫』、3度目の変化は『ハウルの動く城』と、個人的には位置付けている)

 また、魔女の宅急便サントラは、ヨーロッパ風の洗練度の高い旋律美が魅力的で、久石さんの優しく美しいメロディーを堪能できる名盤である。

 収録曲数も、「ナウシカ」や「ラピュタ」サントラに比べて、全21曲と多く、劇中で流れた音楽のほとんどを網羅している。

(ただ、完全収録というわけではない。トンボが仲間たちとオープンカーに乗って現れるカットや、キキがケットの家から急いで飛び立っていくカットで流れる曲が未収録)

 このサントラを聴いて、魔女の宅急便の物語や、キキやジジなど魅力的な登場人物のことをイメージするのも良いし、ヨーロッパの美しい街並みをイメージするのも良い。

 BGMとして聴くのにも、ぴったりな美しいアルバムである。