宗次郎オリジナルアルバム第14作
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映画『良寛』のテーマ曲を含む、日本の郷愁や“和”のこころを感じさせる作品
発売日:1996.9.20(ポリドール)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
編曲:大塚彩子
<レビュー>
①夢
大塚彩子さんによる、ストリングス(バイオリン類の弦楽器によるアンサンブル)の編曲・アレンジが素晴らしい傑作。宗次郎さん作曲の流麗でさわやかなメロディーも秀逸。さわやかさだけでなく、スケール感も感じられる作品となっている。
とても抒情的な曲で、聴いていて前向きな気持ちにしてくれる、美しい作品。
前半のゆったりとした曲調と、後半のストリングスによる動きのある曲調の対比が見事。
②Japanese Spirit(TAKIO ver.)
宗次郎さんの楽曲で、初めて歌詞のある“歌”が収録された作品。
歌うのは、民謡歌手の伊藤多喜雄さん。日本の追分を思わせるような、民謡風のメロディーを、とてもハリのある声で歌いあげておられる。(伊藤多喜雄さんと言えば、2003年の紅白歌合戦で、ダイナミックなソーラン節を歌っておられたのが記憶に残っている)
楽曲後半は同メロディーを、宗次郎さんのオカリナが朗々と奏でる。
日本の美しい山々や心のふるさとを感じさせるような、素晴らしい作品。雄大なスケール感のあるアレンジも見事。
楽曲の最後は、“手毬歌”のテーマが静かに奏でられて、しんみりとした郷愁を残して曲は終わる。まさに“侘び寂び”の境地。
③舟歌
オカリナソロの曲。日本の民謡、例えば追分や馬子唄を思わせるような民謡調のメロディーの曲。
船頭が舟をこぎながら歌っている…そんな情景を表現しているかのよう。
思えば、これまでの宗次郎さんの曲は、日本的な曲はかなりあったものの、ここまで民謡調の曲というのはあまりなかった。
オカリナの音色と、日本の民謡の相性が高いということの証明になっている。
④涙
チェロのむせび泣くかのような音色が印象的。オカリナとチェロのデュエット曲。
弦楽とオカリナの1対1のデュエットというのは、これまでのアルバムには無かったスタイル。デュエットというのは、合奏の最小単位の構成ではあるが、とても味わい深い演奏となっている。
後の『オカリナ・エチュード3~デュエット』へと繋がる伏線となっていると言えるかもしれない。
⑤わらべ唄(月の兎)
郷愁感あふれる、愛らしい童歌を彷彿とさせる、宗次郎さん流の童謡・わらべ唄と言える。
“月の兎”と言うサブタイトルが付けられているが、そこから「う~さぎう~さぎ~」の歌詞の童謡を連想される方もおられるかもしれない。
ハープの音をふんだんに使ったアレンジが見事で、アコースティック(生楽器のサウンド)で優しい音色が心地良い、素朴な風情を感じられる作品。
⑥空(くう)
この曲のタイトル“空”は、仏教での空(くう)を表したものと思われる。このアルバム自体、映画『良寛』(松本幸四郎さん主演の日本映画。1996年公開作)の関連作でもあるので、良寛和尚の“無我のこころ”を表現した曲なのかもしれない。
ストリングスの豊かな音色により、映画音楽的な、ドラマチックなサウンドを味わうことができる。
聴いていて、おおらかな気持ちになれる優しい曲。
⑦手毬歌(TAKIO ver.)
2曲目「Japanese Spirit」につづく、歌入りの作品。2曲目と同じく伊藤多喜雄さんが、郷愁感あふれる“手毬歌”のテーマを歌っておられる。
2曲目では、とてもハリのある歌声を披露された伊藤多喜雄さんだが、この曲では、とても優しく素朴さ溢れる歌声で、子供たちと一緒に歌っておられる。
その慈愛に満ちた歌声は、まさに良寛和尚そのもの。子供たちを愛し、童心を大切にした良寛和尚が、童たちと手毬をついて遊んでいる姿が、目に浮かんでくるかのよう…。
聴いていると、とても懐かしいような気持が湧いてくる、風情のある名曲。
⑧夢見る少女
ストリングスのピチカート(弦を指ではじく演奏)を効果的に使ったアレンジが秀逸。
オカリナと弦楽という、シンプルな編成の曲だが、愁いを帯びた曲調を表現するのに、ピッタリな楽器編成と言える。
曲自体は必ずしも日本的な旋律というわけではなく、むしろ西洋音階による曲だが、切なくも美しい3拍子系の曲で印象深い。
⑨あした
大塚彩子さんによる、透明感のあるピアノの音色が印象的。
この曲は4拍子の部分と、6拍子の部分の、大きく分けて2つの部分から構成されているが、6拍子の所のメロディーが、大層、抒情的で美しい。
悲しいことがあった日でも、“あした”は良いことがきっと起こる…そんな希望を忘れずに、日々を大切に生きて行きたいと思う。
⑩天上大風
“天上大風”とは、子供達から凧に字を書いてほしいと頼まれた良寛和尚が、その凧に書いたと伝えられる言葉。
この曲でも、ゆったりとした和の響きが心地良く響く。“天衣無縫”な良寛和尚のこころを表現しているかのよう。
マリンバ(木琴)のほか、タブラ(インドの打楽器)など民族楽器・エスニックな楽器の音が効果的に使われ、オカリナやバイオリンの音と見事にマッチしている。
⑪手毬歌
7曲目のインスト(器楽演奏)のバージョン。伴奏アレンジは7曲目と同じで、歌だった所を宗次郎さんのオカリナで演奏している。
琴とオカリナの音色は、とても相性が良いということを、この曲が物語っている。“和”の風情が感じられる素晴らしい作品。
昔に、幼かった頃に聴いたことがあるような、そんな日本人の琴線に触れる、郷愁に満ちたメロディーが秀逸。
以前、このアルバムが出た頃だったと思うが、ピアニストの西村由紀江さんが司会を務めるTVの音楽番組に、宗次郎さんがゲスト出演していたことがある。その際に、この曲を披露された。
演奏中、じっと耳を傾けておられた、番組レギュラーの作曲家・宮川泰さんが、演奏が終わった後に宗次郎さんに話しかけられて、「これって、宗次郎さんが作曲されたんですか?めっちゃ、ええなあ…。これは、ええわ~。」と、感動しておられたのが記憶に残っている。
⑫Japanese Spirit
2曲目のインスト・バージョン。伴奏アレンジは2曲目と同じ。伊藤多喜雄さんが歌っておられた所を、低めの音域のオカリナで演奏されている。
伊藤多喜雄さんの唄のバージョンもいいのだが、やはり宗次郎さんのオカリナ演奏による「Japanese Spirit」は、本当に素晴らしい。まさに、“日本のこころ”を表現した傑作。
宗次郎さんが作曲する日本的なメロディーラインは、どちらかと言うと抒情歌・童謡唱歌的な響きが感じられるが、この曲はまさにその典型で、古き良き日本の風情が、心に伝わってくるメロディーである。
大塚彩子さんのアレンジも見事で、曲調が変わる所での太鼓の音の使い方や、格調高いストリングス・アレンジなど、実に“上手い”アレンジを堪能できる。聴き応えのある素晴らしいアレンジとなっている。
この曲は残念ながら、コンサートではほとんど演奏されることがない曲だが、ぜひ、ストリングス・オーケストラをバックに、生演奏で聴いてみたいと思える名曲である。
<総評>
以前書いた記事(特別コラム『喜多郎と宗次郎~似てる?似てない?徹底比較!!』中編)で紹介したことなのだが、宗次郎さんのアルバムは、担当する編曲家によって大きく作風が変わることがある。その例を最もよく示しているのが、前作『光の国・木かげの花』と今作『Japanese Spirit』。
『光の国・木かげの花』では、坂本昌之さんによるポップで、ドラムサウンドをふんだんに使ったリズミカルな作風だったが、宗次郎さんが坂本昌之さんとのタッグを解消し、次に組んだ大塚彩子さんにより、本作『Japanese Spirit』は格調高い、アコースティックな作風となっている。
わずか一年違いのアルバムだが、大きく作風が異なるアルバムとなった。
また、大塚彩子さんとは、翌年発表のライブアルバム『acostic world 42』と次作『愛しの森a-moll』でもタッグを組むが、それ以降のアルバムにも、この頃に生み出された“格調高い”“アコースティック路線”の作風が、宗次郎さんのアルバムのメインの作風として受け継がれており、そういったことから、本作『Japanese Spirit』は、『木道』以降の宗次郎さんセルフ・プロデュース作品において大きな転機、ターニングポイントとなった作品と言える。(個人的には、坂本昌之さんのアレンジより大塚彩子さんのアレンジの方が好きだったりする。宗次郎さんのオカリナの音色にとてもよく合うアレンジだと思う)
『Japanese Spirit』では、日本的な郷愁や日本の心を大きなテーマとしているが、これまでの作品以上に、“和”の響きを追求した作品となっている。
宗次郎さんが描く“和”の響きは、例えば“京都”のような雅な世界観ではなく、むしろ、“雪国(東北や北陸のような)”や“山里”といった、素朴な心を感じられる日本を描いていると言える。
それは、本作が映画『良寛』の関連作ということで、良寛和尚が生きた越後の風景にインスパイアされているところも、あるのかもしれない。
いずれにせよ、“Japanese Spirit=日本の心”が呼び覚まされる、すべての日本人に聴いてもらいたいと思える美しいアルバムである。
本作は宗次郎さんのアルバムの中では、必ずしも代表作と言われることもなく、コンサートでもあまり取り上げられることもなく、どちらかと言うと地味な存在なのだが、もっと評価されるべき名作だと考えている。
☆以下のサイトで、全曲試聴およびダウンロード購入ができます。
☆アルバム『Japanese Spirit』より「夢」を、ヒーリング・ホイッスルでカバー演奏しています。
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【ヒーリング・ホイッスル】夢【オカリナ奏者・宗次郎作品を、ケルトのホイッスルでカバー演奏】