◎宗次郎アルバム第21作『Ocarina Wind Family』レビュー

宗次郎オリジナルアルバム第21

Ocarina Wind Family

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あたたかな旋律の、家族愛・故郷への愛に満ちた、郷愁感あふれる作品。 

 

発売日:2005.5.21(販売元:ユニバーサルミュージック/発売元:風音工房)

 

プロデュース:宗次郎

作曲:宗次郎

編曲:沢田完、野崎洋一、小林健作、宗次郎

 

 

<レビュー>

Gracias

 曲名はスペイン語で「ありがとう」の意。まるで、スペインの舞踊・フラメンコを思わせるような、情熱的で躍動的なリズム感が印象的な曲。

 これまでの宗次郎さんの作品でも、例えば、アルバム『あゆみ』の「旅立ち」や、アルバム『天空のオリオン』の「リュブリャーナの青い空」のような躍動感のある曲はあったが、この「Gracias」ほど、スパニッシュ・ラテンな味わいの曲は無かった。

 とにかく、情熱的でカッコいい曲である。

 

Ocarina Dance

 幻想的で瞑想的な前奏・イントロ、そして、透明感のある伸びやかな宗次郎さんのオカリナ・サウンド。イントロ部はいつも通りというか、これぞ宗次郎さんの音楽といった感じなのだが、そこからの展開がすごい。

 イントロの静けさを打ち破るかのようなダンス・ビートにのって、オカリナが、印象に残るキャッチーなメロディーを奏でて行く展開は圧巻。曲名の“Dance”は、ダンスのリズムのことだったのかと気付くことになる。

(※ダンス・ビート:シンセサイザーのドラム音をメインに使った、ポップ音楽で多用されているリズム)

 宗次郎さんのアルバムで、ここまではっきりとした、ノリのいいダンスのリズムが使われるのは、アルバム『光の国・木かげの花』の「光の花」以来となるが、その時よりも洗練され進化している。

 とてもクールでカッコいい曲である。

 

Ocarina Wind Family

 世界遺産に指定された“知床”をテーマにした作品。アルバムのタイトル曲であり、曲調も、ある意味よくあるタイプの宗次郎さんらしいメロディーの曲なのだが、1曲目と2曲目があまりにもカッコ良すぎたせいか、この3曲目はやや平凡な曲調に思えてしまい、先の2曲に比べると、どうしても見劣りする感じがある。どちらかというと個性が弱い曲なので、もっとインパクトが欲しいところ

 ちなみに、宗次郎さんと知床の関わりは、自然三部作(9193年の『木道』『風人』『水心』)の頃に放送された、関西テレビ制作のTV番組『土曜大好き830』の旅のコーナーの企画に遡れると思われる。詳しくはこちらの記事を参照宗次郎さんの音楽との出会い~そして、素晴らしき音楽の世界へ<第2話>

 

④幼き日

 日本の童謡唱歌や、わらべうたを彷彿とさせる、美しく郷愁感あふれる作品。聴いていると、何故だか“懐かしい”と思わせる魅力にあふれている。まさに、宗次郎さんのオカリナ・サウンドの真骨頂。

 美しい野山や田んぼ、そよ吹く風…。その中で無邪気に遊ぶ子供たち…。

 そんな日本のふるさとの情景を思い描きながら、この曲を聴くと、とても安らかな気持ちになれる。

 

⑤木の葉の舞

 伴奏のアルペジオ(分散和音)が、木の葉がひらひらと舞っている情景を連想させる。

 派手さや個性的な印象はなく、ちょっとした小品といった趣きの曲。

 

⑥神々の里

・神楽笛:Hyakko Fukuhara

 日本神話ゆかりの里として知られる、宮崎県の高千穂をテーマにした曲。

 幽玄な雰囲気がただよう前半と、山里の神楽囃子を思わせる後半の対比が素晴らしい。神楽笛をとり入れたアレンジも秀逸。

 高千穂の山々の景色が目に浮かんでくるかのよう。神社などでの野外ライブで、この曲が演奏されると、完全に会場の雰囲気にマッチすると思う。

 “和”の美しさを感じさせる作品。

 

⑦思い出の空

 2005年に、被爆60年を迎えた広島をモチーフにした曲。

 曲名から推測すると、原爆で破壊されてしまう以前の広島の街や人々に、思いを馳せて作られた曲ではないかと伺える。

 家族と暮らしたり、友達と過ごしたり…。そんな営みを、広島の青い空の下で人々は過ごしていたことだろう。そんな人々の幸せや故郷を、一瞬で消し去ったあの日の朝…。

 この曲は、声高に反核や反戦を訴えた内容では、決してないけれども、静かに流れる哀愁のメロディー(どことなく昭和風のノスタルジックな感のあるメロディー)に耳を傾けていると、被爆前の広島で暮らしていた人々と、その街の“思い出の空”に想いを馳せることができる。今一度、平和を願わずにはいられない。

 宗次郎さんの音楽の話からはそれるが、この曲のテーマ性とのつながりで、アニメ映画『この世界の片隅に』を連想する。

 アニメ『この世界の片隅に』は、まさに、戦前から戦中にかけての広島の町並みと、そこで暮らす人々の営みが、見事に映像化された作品だった。個人的に、最高級の感動作で、大のお気に入りのアニメ映画なので、ぜひお薦めしておきたいと思う。

 

serai

 シンセサイザーによるアルペジオ(分散和音)を使った編曲・アレンジはユニークなのだが、メロディーがインパクトが弱めで、やや平凡な印象であることを否定できない。個人的にはもうひとつな曲。

 seraiは、宿(隊商宿)を意味するサライのことと思われるが、曲からはあまりそういったイメージは伝わってこない。

 

⑨遠い日の記憶

 宗次郎さんの生まれ故郷・群馬県館林市の市制50年を記念して作られた作品。

 メロディーもアレンジも素晴らしく、この曲を聴きたくて、このアルバムをかけることもあるくらい、お気に入りの傑作。このアルバムの中で一番好きな曲。

 おそらく沢田完さんのアレンジと思われるが、(オーケストラ・サウンドの)シンフォニックなアレンジが見事。

 曲は、大きく分けて3つの部分で構成され、流麗でさわやかなメロディーが美しい第1部分、動きのあるシンフォニック・サウンドが素晴らしい第2部分、優しく郷愁あふれる温かなコーダ(曲の終焉部)の第3部分からなる。

 宗次郎さんの故郷・館林がモチーフということで、宗次郎さんご自身の思い出が投影されていると思われ、深い思い入れを込めて作られた作品だということが、聴いていてとてもよく伝わってくる。

 傑作!!

 

Indian Flai~人生にありがとう~

 インドの打楽器タブラの音を効果的に使ったアレンジが秀逸。

 メロディーも覚えやすく、宗次郎さんらしい、親しみやすく優しい旋律が印象的。ほのぼのとした雰囲気で、このアルバムを締めくくっている。

 家族や故郷をテーマに描いたこのアルバムだったが、最後に、感謝の気持ちを込めた曲でまとめられているのは、実によく考えられた構成だと言える。

 

 

<総評>

 発売元が、ユニバーサル・ミュージックから宗次郎さんの個人レーベル・風音工房となり、3年ぶりに発売されたアルバムだが、他の以前の作品のように、アルバム全曲をまとめ上げるような、全体を通しての大きなテーマ性は比較的薄く、11曲を集められて作られたアルバムという感じがする。(例えば、縄文テーマの『まほろば』、北欧テーマの『天空のオリオン』という風に、一つのテーマによる大きなくくりを、あまり感じない)

 そういう意味では、99年発表作『あゆみ』に近い系統のアルバムと言える。

 ただ、『Ocarina Wind Family』収録曲は、良曲と平凡な曲との落差があり、同系統のアルバムとしては、『あゆみ』の方が比較してクオリティーは高いと言える。

 とは言え、『Ocarina Wind Family』の1曲目「Gracias」、2曲目「Ocarina Dance」、6曲目「神々の里」、9曲目「遠い日の記憶」は、非常に高いクオリティーの作品となっており、この4曲は、とても聴き応えのある作品である。

 また、デビュー以来ほぼ毎年、必ずオリジナル・アルバムをを出して来られた宗次郎さんが、約3年も間を空けたのは、この時が初めてとなる。(発売元の変更から察するに、契約面のことも関係しているのかも

 そして、本作以降は、アルバムの発表頻度は23年に一枚のペースとなる。

 『Ocarina Wind Family』では、色々と表現を模索している感もあったが、その分、次作『土の笛のアヴェ・マリア』からは、さらに今まで以上にクオリティーや表現性がパワーアップしている。

 そして、円熟度を増した宗次郎さんは、『土の笛のアヴェ・マリア』『オカリーナの森から』『古~いにしえみち~道』『オカリーナの森からⅡ』という、大傑作&最高傑作群を生み出して行くこととなる。

(ちなみに、本作のタイトル『Ocarina Wind Family』は、その後、宗次郎さんのファンクラブの名称となった)

 

 

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