◎宗次郎アルバム第12作『水心』レビュー

宗次郎オリジナルアルバム第12

『水心』

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“水”をテーマにした、自然三部作第3弾。

日本レコード大賞企画賞受賞作品。(『木道』『風人』『水心』の自然三部作に対して)

 

発売日:1993.9.22(ポリドール)

 

プロデュース:宗次郎

作曲:宗次郎

編曲:坂本昌之

 

 

<レビュー>

①春の土

 宗次郎さんのオカリナ・ソロで始まる曲。

 ゆったりとした温かな印象の曲で、日差しが暖かくなった、春ののどかな田舎の情景を思わせる美しい曲。

 1993年の水心コンサートツアーのパンフレットに書いてあったのだが、をテーマに曲を考えた時、どうしてもをセットで連想し、アルバムの最初と最後は、土を描いた曲にした、とのこと。

 雪解けの水が春の土に染み渡って行き、大地を潤す…そんな様を描いた曲なのかもしれない。

 

②水の旅人

 雪解けの水が小川となり、河を下り、田畑を潤しながら海を目指し、海で雲となり、再び雨となって大地にそそぐ…そんな水の大循環の旅路を思わせる美しい曲。サビのメロディー(曲の中で一番盛り上がったり、印象に残る旋律)が印象的。

 ちなみに、このアルバムが発売された年には、大林宣彦監督の映画『水の旅人』が公開されているが、この曲は映画とは無関係で、たまたまタイトルが被っただけと思われる。(映画『水の旅人』の音楽は、久石譲さんが担当しておられた)

 

③悲しい水

 アコースティック・ギターによる前奏部・イントロのメロディーが印象的。

 哀しげなゆったりとしたメロディーの曲だが、オカリナ・ソプラノC管(ピッコロ・高音管)により、透明感のある澄んだ美しさをたたえた曲。悲しくも美しいそんな言葉がピッタリの作品。

 コンサートの際に、この曲の説明で、透き通った美しい水を見ていると、悲しい気持ちが湧いてくる、と宗次郎さんが語っておられたのが印象に残っている。

 

④水の妖精

 3曲目の静寂を打ち破るかのような、パーカッション(打楽器)・アコーディオン・バイオリンなどによる、躍動感あふれるイントロが開始され、まさに水の妖精たちが、水面で跳びはね踊っているかのような、動きのあるメロディーが、オカリナによって奏でられる。

 このアルバムの中で、最もリズミカルな曲であり、宗次郎さんの演奏の表現力の幅広さを感じることができる。

 アコーディオンでcoba(小林靖宏)さん、バイオリンで金子飛鳥さんが参加している。

 

⑤静なる湿原

 にぎやかだった4曲目から一転し、静寂感漂う神秘的なシンセサイザーのイントロが印象的な5曲目が始まる。

 この曲は釧路湿原がモチーフになっているそうだが、スケール感のある曲で、聴き応えがある。湿原に生きる生命への讃歌を思わせる、重厚な作品。

 後半のクライマックスの、オカリナ・ソプラノC管によるトリル(2つの音が細かく上下する部分)が、鳥の鳴き声を表しているかのようにも聴こえる。

 服部隆之さんによる、ストリングス・アレンジ(ヴァイオリン類、弦楽器のアンサンブル)も見事。

 

⑥水心

 オカリナ・ソプラノC管によるソロ曲。

 宗次郎さんの代表曲の一つで、コンサートでも必ず演奏される。イ短調のメロディーを、澄んだ透明感のある音色で奏でて、“水心=水のように清らかな心”を表現している。

 メロディーに使われる音階は、宗次郎さんの作品に多い“ラシドレミソラ”という、5音音階+1音の6音音階で、サビのメロディーが印象的で美しく、瞑想的な雰囲気が漂う。(5音音階とは、ドレミソラの5音から成る音階。日本や世界の民族音楽でよく使用される音階)

 アルバム・ジャケットにも写真が使われている、北海道清里町の神の子池のような、澄んだ水のイメージにぴったりな曲。

 自分自身、初めて聴きに行った宗次郎さんのコンサートの、オープニングがこの曲だったので、人生で初めて耳にした、宗次郎さんの生演奏のオカリナの音色の曲ということになる。高校一年生のことだったが、この時の響きは、いまだに耳と心に残っている感じがする。(→「宗次郎さんの音楽との出会い~そして、素晴らしき音楽の世界へ」<第3話> 参照)

 

⑦生きている水

 曲調やテーマとしては、2曲目の「水の旅人」と重なるところが多いように思う。アコースティックな響き(生楽器を中心とした響き)を感じさせるアレンジとなっているのも、2曲目と共通。

 イントロ・間奏のアコースティック・ギターの音色が心地良い。生命の源である水の尊さを描いているように感じる。

 

⑧雪どけの里

 とても愛らしい雰囲気の曲。春の雪どけの山里で、わらぶき屋根の民家の前で楽しげに遊ぶ、童たちの姿が目に浮かぶよう。3連符(1つの拍に音を3つ入れたもの。タタタという感じのリズム感が出る)を効果的に使ったメロディーが、楽しげな雰囲気を醸し出している。

 イントロ・エンディングの、坂本昌之さんによるアレンジも秀逸。

 宗次郎さんの曲では、日本の山里の美しさ・素晴らしさを感じさせる作品が多いが、この曲もそのタイプの作品の一つ。

 この曲からは、雪国の山里の人達の、待ち遠しかった春の到来への喜びの気持ちを、連想することもできる。

 

⑨海にゆられて

 ゆったりとした美しい旋律が印象的。まさに海のさざ波に揺られているかのような、のどかな気持ちになれる曲。

 思えば、宗次郎さんの作品では、森や風、大地といったモチーフで曲が作られることが多いが、海をテーマにした曲は、どちらかというと珍しいような気がする。

 どこまでも広がる青い水平線を、平和な気持ちで眺めているような気分にしてくれる素晴らしい良曲。

 

⑩水と土への祈り

 9曲目から一転して、重厚で瞑想的なサウンドが展開される。

 いつまでも、大切な水と土が守られていきますように…という強い祈りを感じさせる曲。

 中間部の、まるで尺八の古典曲を思わせるかのようなフレーズが、印象的で素晴らしい。宗次郎さんのオカリナの音色は、日本的なサウンドがよく合うと思うが、この曲はまさに、その本領が発揮されていると言える。

 個人的には、1993年の水心コンサートツアーの大阪・四天王寺公演で、ステージのバックの仏像が、ライトアップで浮かび上がる中、この「水と土への祈り」が演奏された時の、幻想的な雰囲気が強く印象に残っている。(「宗次郎さんの音楽との出会い~そして、素晴らしき音楽の世界へ」<第3話> 参照)

 

 

<総評>

 『木道』『風人』に続く、宗次郎さんセルフ・プロデュース作品第3作となったアルバムだが、前2作を経て、成長し凝縮された宗次郎さんの音楽性の高まりが、この『水心』で見事に結実していると言える。宗次郎さんの傑作アルバムにして代表作。

 先述の『木道』『風人』とともに、自然三部作を構成し、この自然三部作で1993年の日本レコード大賞企画賞を受賞することとなった。

 その効果も相まって、『水心』を含む自然三部作は、宗次郎さんの数あるアルバムの中でも最もよく売れたCDになったと思われ、宗次郎さんの代表作と記されることも多い。現在のコンサート活動でも、自然三部作からの曲はよく取り上げられ、特に「故郷の原風景」「凪」「水心」の3曲は、ほぼ必ず演奏されている。

 アルバム『水心』は“水”をテーマにして、水にまつわる情景、さらにはその心象をも多様な曲調で描かれており、完成度・クオリティーが非常に高い名作といえる。

 個人的にも、初めて聴きに行った宗次郎さんの生演奏が、1993年の水心コンサートツアー・水府大演奏旅行の公演だったので、とても想い出深い作品である。

 

 

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☆アルバム『水心』より「水心」を、ヒーリング・ホイッスルでカバー演奏しています。

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【ヒーリング・ホイッスル】水心【オカリナ奏者・宗次郎作品を、ケルトのホイッスルでカバー演奏】