◎宗次郎アルバム第11作『風人』レビュー

宗次郎オリジナルアルバム第11

『風人』

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“風”をテーマにした、自然三部作第2弾。

 

発売日:1992.9.21(ポリドール)

 

プロデュース:宗次郎

作曲:宗次郎

編曲:坂本昌之

 

 

<レビュー>

①凪

 オカリナのテナーG管(メーカーによってはアルトG管と呼ぶ。やや低めの中音域の笛。ソの音で始まるドレミでできた笛)によるソロ曲。

 短い曲ながら、凪の静寂や空気感を見事に表現した曲。

 宗次郎さんのオカリナ演奏は、どちらかと言うと、ソプラノ管(高音管)やアルト管(中音管)を使うことが多いので、低い音色を聴けるこの曲は、ある意味、貴重であると言える。現在でも、コンサートでよく取り上げられている

 コンサートではF管(ファの音で始まるドレミでできた笛)を使っておられるが、この初出のアルバムバージョンでは、G管による演奏となっている。

 

②風の神

 民族音楽調・エスニックな感じのミニマル・フレーズ(短い音型を繰り返すタイプのフレーズ)が印象的な前奏部・イントロに続き、宗次郎さんのオカリナの音色が、風のように駆け抜けていく。

 坂本昌之さんのアレンジの特色の一つとして、はっきりと強調させたベース・サウンドが挙げられるが、この曲はまさに、その典型で、メロディックなフレーズをベースが格好良く奏でている。(ベースは、一番低い音域で鳴っている楽器。曲を低音で支えている)

 この曲は、数ある宗次郎さんの作品の中で、特にスタイリッシュでクールな曲となっている。

 

③風に揺れる木々たちと 

 ズバリ名曲!なぜかコンサートではあまり演奏されないが、もっと取り上げてほしいと思える素晴らしい曲。

 シャッフル・リズム(スウィング=思わず体を揺らしてしまうような、楽しい感じのリズム感が味わえる)にのって、タイトルのイメージ通りの、木々が爽やかな風に揺れている情景を感じさせる、楽しい曲である。それも、ただ楽しいだけではなく、抒情性もたたえたメロディーが美しい。“さわやか系”の宗次郎作品の傑作。

 この曲を聴くと、初夏の瑞々しい新緑の季節の、青々とした森の木々をイメージする。

 

④鳥たちの森で

 オカリナのソプラノC管(ピッコロ・高音管)は、実に、小鳥のさえずりを表現するのにピッタリな笛だと、痛感させてくれる名曲。

 同様の曲としては、『グローリー・幸福』の「小鳥の歌」があるが、楽曲の完成度・クオリティーは「鳥たちの森で」の方が高いと言える。

 この曲では、これまでにあまり無かった、クラシック調の曲調を、間奏部などに取り入れたアレンジとなっているのが特徴的。思えば、宗次郎さんの作品で、このようなクラシカルな西洋音楽の曲調は『木道』以前のアルバムにはなく、この曲が初めてとなったと思われる。

 とても可愛らしい雰囲気で、メルヘンな感じもする作品。ヨーロッパの古い街並みの風景とかにも、よく合いそうな曲となっている。

 

⑤風が谷間を降りて来る

 6拍子系の流麗かつ哀愁を帯びたメロディーが印象的。

 このアルバム『風人』では、音楽による情景描写が見事なのだが、この曲もタイトル通り、風が谷間を静かに降りて、吹いてくる情景を見事に表現している。その風を、あたかも肌で感じているかのような、心象風景を生み出す音楽である。

 

⑥林をくぐりぬけて

 5曲目は風を受けて感じる側だったのが、次の「林をくぐりぬけて」では、自らが風となり、林を吹き抜けていくかのようなイメージを与えてくれる。

 アコーディオン奏者のcobaさんのアコーディオンと、宗次郎さんのオカリナの音色が見事にマッチした、リズム感のある良曲。メロディーもキャッチーで覚えやすく、一度聴いたら忘れられないような親しみやすさがある。

 

⑦流れる雲に

 ストリングス(ヴァイオリン類、弦楽器のアンサンブル)のアレンジが印象的。

 この曲の曲調からは、秋の空をイメージする。

 秋の夕暮れの赤く染まった空を流れて行く、雲を眺めているような、そんな風景を連想する曲。

 

⑧風の祭り

 この曲は、大きく分けて2部構成となっている。

 ゆっくりとしたテンポの前半部と、踊りの曲のようなアップテンポな後半部からなる。

 全音階的なメロディーが多い、宗次郎さんの作品の中では珍しく、半音階を多用しているのが特徴的。(全音階とは、簡単に言うと、いわゆるピアノの白い鍵盤の音。同じく半音階はピアノの黒い鍵盤の音)

 半音階も演奏可能であるオカリナならではと言える。(ティン・ホイッスルの場合は、基本的に半音階を鳴らしにくい構造で、もしこの曲をホイッスルでカバーして吹くとしたら、相当困難と言える)

 後半の間奏部の、アコーディオンとギターのパートがかっこいい。

 

⑨朝

 坂本昌之さんによるシンセサイザー・アレンジが秀逸。

 ミニマル・ミュージックの手法を用いながら、夜明けから朝の、生命の鼓動を感じさせる曲に仕上げられている。(ミニマル音楽とは、短い音型を繰り返すタイプの音楽。イメージとしては『風の谷のナウシカ』の音楽のような感じ)

 宗次郎さんのオカリナの主旋律も非常に美しく、オカリナの音色があたかも、朝日の光を表現しているかのようにも聴くことができる。

 個人的には、宗次郎さんの作品の中でも特筆すべき傑作と考えているが、なぜかこの曲もコンサートでは演奏されることがない…。

 

⑩風人

 アルバムのタイトル曲であるが、「木道」の時と同じく、聴けば聴くほどに味が出てくるスルメ曲。

 自然三部作を発表した頃に、NHK-FMの番組に宗次郎さんが出演された際、番組DJの方が風人という曲名を見て、宮沢賢治の『風の又三郎』を連想すると語っておられた。うまいこと言うなあと、感心したのをよく覚えている。

 

⑪光に向かって

 フォルクローレ(南米アンデスの民族音楽)を思わせるようなメロディーとリズムに富んだ良曲。宗次郎さんはフォルクローレがお好きなようで、度々、フォルクローレ風の曲を作られるが、この曲はその典型。(宗次郎流フォルクローレ=ソウジローレとでも言うべきか)

 コンサート時のMCで話されておられたのだが、宗次郎さんはチャランゴ(アンデスの弦楽器。小さなギターのような形をしている)の音がお好きなのだとか。

 この曲はアレンジも秀逸で、パーカッション・打楽器類のリズムにのって、エスノ・ポップ(民族音楽風ポップ)な仕上がりとなっている。

 2回目のサビの後にくる、大サビのメロディーが素晴らしい。(サビは、曲の中で一番盛り上がったり印象に残る部分だが、大サビとは、さらにもう一段階、曲を盛り上げるようなメロディーの部分)

メロディーの構成も見事な曲。

 

⑫いにしへの風

 オカリナ・ソロで始まり、悠久の歴史の流れを感じさせるような、東洋的でゆったりとしたメロディーが奏でられる。アレンジも、アジアン・テイストなニューエイジ音楽らしい編曲で、間奏での、中国の弦楽器・二胡奏者のジャー・パンファン(賈鵬芳)さんによる二胡の音色が印象的。

 かなり昔だが、民放のとあるニュース番組で、宗次郎さんがこの曲を、雨の降る法隆寺でライブ演奏されたのをよく覚えている。宗次郎さんのオカリナ・ソロによる演奏だったが、法隆寺の空気感と非常によくマッチしていた。

 

 

<総評>

 ポリドール移籍後2作目となる本作は、をテーマとしたアルバムで、前作『木道』と次作『水心』とともに、自然三部作を構成している。

 前作『木道』と比較して、音楽スタイルのバリエーションが、より豊富になっているのが特徴と言える。それは民族音楽の要素だったり、今までのアルバムではあまり共演することがなかった楽器(アコーディオンや二胡などの民族楽器)が取り入れられていることから醸し出されている。

 宗次郎さん作曲によるメロディーも、よりキャッチーな曲になっており、『木道』と比べると、全体的に、よりポップな印象を受ける。パーカッションなどの、リズム楽器を巧みに使ったアレンジと相まって、聴いていてとても楽しい作品となっている。

 また、現在大活躍中のアコーディオン奏者・cobaさんだが、当時は本名の小林靖宏名義で活動されており、アルバムのクレジットにもアコーディオン:小林靖宏と記載されている。(本作に続く『水心』『鳥の歌』のクレジットも同様)

 

 

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<宗次郎CD総目録>

 

 

☆アルバム『風人』より「凪」を、ヒーリング・ホイッスルでカバー演奏しています。

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【ヒーリング・ホイッスル】凪【オカリナ奏者・宗次郎作品を、ケルトのホイッスルでカバー演奏】