<『縄文ノ水月(ウミ)~三方五湖幻想~』について>
『縄文ノ水月(ウミ)~三方五湖幻想~』は、福井県・三方五湖(みかたごこ)の美しい自然と、その周りで約1万年前に栄えていた縄文遺跡である、“鳥浜貝塚遺跡”をモチーフにした作品です。
また、三方五湖の五つの湖のうち、水月湖(すいげつこ)という湖も大きなモチーフとなっております。
水月湖では、世界的に貴重な、7万年に渡る年縞(ねんこう:湖底の堆積物の層のこと)が発見されています。それは、古代の環境を知るためのタイムカプセルとされ、注目されています。
元来はケルトの民族楽器である、ホイッスルの音色により、太古の世界・縄文へのロマンをテーマに描いた壮大な音楽紀行。
それが、『縄文ノ水月(ウミ)~三方五湖幻想~』です。
ケルト文化と縄文文化には、自然崇拝や独特な渦巻き文様、生と死を繰り返す輪廻思想など、とても多くの共通点が見られます。
この作品を作曲していて、ホイッスルの音色と“縄文”が、驚くほどに親和性が高いことを感じました。何か共鳴するものがあるのかもしれません。
ヒーリング・ホイッスルの演奏を通して、遥かいにしえの世界、縄文ワールドへのイマジネーションを、ぜひお楽しみください!
令和2年(2020年) 春 アシタツ
<福井県・三方五湖と縄文>
景勝地として知られる“三方五湖(みかたごこ)”は、福井県の若狭にあります。
三方湖(みかたこ)、水月湖(すいげつこ)、菅湖(すがこ)、久々子湖(くぐしこ)、日向湖(ひるがこ)の五つの湖から成る名勝です。
付近は豊かな自然に包まれ、湖畔を巡る自動車道(レインボーライン)やサイクリングロードが整備され、福井県を代表する観光地のひとつとして知られています。
その5つの湖のうち、三方湖の湖畔では、今から約12000~5000年前に栄えた縄文時代の集落遺跡“鳥浜貝塚”が、発掘されています。
遺跡周辺では現在、復元された竪穴式住居や、発掘品を展示した若狭三方縄文博物館などが整備され、歴史公園「縄文ロマンパーク」として観光できるようになっています。
数年前の夏に、この縄文ロマンパークを訪れた際、遥かいにしえの縄文ロマンに心打たれ、ぜひ音楽で“縄文ワールド”を表現したいと思いました。その思いが結実したのが、本作品です。
また、三方湖の隣の水月湖は、世界的に貴重な湖とされています。
水月湖の湖底には、約7万年に渡る堆積物の層・年縞(ねんこう)が発見されています。それは、1年ずつが地層のような縞模様で積み重なったもので、世界一の長さを誇る年縞とされています。
現在、地質学の年代決定における、世界標準の物差しと定められています。
その年縞について、実物を分かりやすく展示した施設である、福井県年縞博物館も縄文ロマンパークにあります。
この年縞博物館を昨年の春に見学し、縄文からさらに古い時代へのロマン、果てしなき地球と人類の歩みにも、思いをいたすことが出来ました。
壮大なドラマを感じました。
人間が自然と共生していた“縄文”。
そして、人知が及ばないほどの、壮大でダイナミックな地球の歩みを、音楽を通して感じていただくことが出来れば、幸いに存じます。
https://www.town.fukui-wakasa.lg.jp/jomon/index.html
http://varve-museum.pref.fukui.lg.jp/
<楽曲解説>
①縄文ノ水月(ウミ)~三方五湖幻想~
②夜明け~縄文ノ暁~
③雪どけのムラ~五湖の春~
④蒼き湖(ウミ)へ~風と舟と青空と~
⑤炎神(ホムラガミ)~大地を司りしもの~
⑥満天ノ星々~縄文ノ宇宙(ソラ)~
⑦鳥浜ムラの子どもたち~風・ワラベ~
⑧縄文流転~イノチハメグル~
⑨感謝のイノリ~森・大地・湖の恵み~
⑩水月湖讃歌~7万年の時空(トキ)をこえて~
(※全曲、YouTubeにて試聴できます)
①縄文ノ水月(ウミ)~三方五湖幻想~
<解説>
この曲は、アルバム全体のメインテーマ的な位置づけで作曲しました。
三方五湖の雄大な景色と、縄文世界のダイナミックな営みを表現したいと思いました。
豊かな大自然の息吹に包まれながら、その自然とともに生き、暮らしていた縄文の人たち。
若狭三方縄文博物館で見た、多くの土器や出土物。
それらと対面すると、縄文の人たちの日々の暮らしぶりが、脳裏に浮かんできました。
その時に感じた様々なイメージが、この曲を生み出すモチーフになりました。壮大な縄文世界を感じられるような、広がりのある曲を作りたいと思いました。
曲は、ゆったりとした前奏部(イントロ)と、動きのある主要部から成ります。
前奏部は、湖が広がる雄大な光景をイメージし、主要部は、その湖・大自然の中で活き活きと暮らす縄文の人たちや、縄文世界の営みをイメージしました。
伴奏は、シンセサイザー音源ながらも、オーケストラ的なシンフォニック・サウンドをベースに編曲しています。
<YouTubeで試聴>
②夜明け~縄文ノ暁~
<解説>
縄文時代の、夜明けの光景はどんな感じだったのでしょうか。
湖には霧が立ち込め、森の木々の間から静かに朝日が差し込み、小鳥たちはさえずり始める…。
霧が晴れ、蒼い湖面は日光が反射して、キラキラと輝く。
目を覚めした縄文の人たちが、朝の空気を肌で感じながら、鳥たちのさえずりに耳を傾けつつ、朝食を食べ1日の活動を始めていく…。
現代人よりも、はるかに健康的な朝を過ごしていたかもしれません。
そんな、縄文の夜明け・朝をイメージして作った曲です。
シンセサイザーの透明感のあるサウンドをメインにしつつ、ヒーリング・ホイッスルの澄んだ音色で、朝の爽やかな雰囲気を表現できればと思いました。
曲間で、聴こえてくるカッコウの鳴き声は、ホイッスルによる鳴き真似で奏でています。
<YouTubeで試聴>
③雪どけのムラ~五湖の春~
<解説>
三方五湖には、夏のほか、早春の季節にも訪れたことがあります。
彼方の山の頂付近は白い雪に覆われ、梅の花が咲き誇る湖畔とのコントラストが美しく、心に残りました。
(※三方五湖周辺は、梅の名所でもあります)
縄文時代の人たちも、雪どけの早春には春の到来を喜びながら、白い雪と春の花々を見ていたのかもしれません。
そんな、春の歓喜に満ちた縄文のムラのイメージで作曲しました。
~爽やかで暖かい春風が、ムラの中を通り抜けていきます~
~ムラの人々は冬ごもりから外に出て、新たな春の訪れを祝い、喜びながら生活を始めていきます~
この曲では、ロー・ホイッスルG管という笛を使っています。
通常使うホイッスル(ティン・ホイッスルD管&C管)よりも、やや低い音域の笛ですが、落ち着いた音色が出る笛です。
この音色が、冬から春へと移り変わっていく湖の風景や、早春の風をイメージし、やがてクライマックスのメロディーへと受け継いでいきます。
曲の後半のクライマックスでは、高い音域の笛(ティン・ホイッスルC管)がメロディーを奏でます。縄文の人たちの喜びをイメージして表現しました。
<YouTubeで試聴>
④蒼き湖(ウミ)へ~風と舟と青空と~
<解説>
三方五湖の縄文遺跡では、縄文の人たちが作った大きな丸木舟も出土しています。長さが5メートルを超えるであろうと思われるような、大きな丸木舟です。
三方湖の湖畔にある、若狭三方縄文博物館で展示されており、見学することができます。
その舟を見学していて想像しました。
大きな丸木舟に何人かで乗り込み、掛け声をかけて、蒼い湖へと繰り出していた縄文の人たちの姿を。
漁をしたり、さらには海を目指して漕いで行ったり…。
縄文の船乗りの男たちの、勇ましくたくましい姿をイメージしました。
そんなイメージで作った曲が、この「蒼き湖(ウミ)へ~風と舟と青空と~」という曲です。
ダイナミックで躍動感のあるイメージを、シンフォニックなサウンドと、ヒーリング・ホイッスルの音色で表現しています。また、野性味を出すため、パンフルートという笛の音色をシンセサイザーで出して編曲しています。
(※アンデスやルーマニアなど世界各地の民族音楽でみられる笛。瓶をフッフッと吹いたときに鳴るような音色)
蒼い湖と真っ青な空、そして、湖面を風と共に渡っていく、大きな丸木舟の姿をイメージしながら聴いていただけると幸いです。
<YouTubeで試聴>
⑤炎神(ホムラガミ)~大地を司りしもの~
<解説>
縄文ロマンパークのそばには、青少年向けの施設やキャンプ場があります。
キャンプといえば、やはりキャンプファイヤーが楽しみの一つ。
縄文の人たちも、夜には焚き火をして、その周りに集い、食べたり踊ったりといったマツリをしていたことでしょう。
また、縄文には様々な土器が作られました。
土器を作るのにも、火が必要です。
縄文の人たちは、もしかしたら、火に何か神秘的なものを感じていたかもしれません。
万物にカミが宿っている、というアニミズム文化である“縄文”。
火には、燃える力=大地のエネルギーが結晶化しているというイメージを抱き、火に宿るカミ・炎神(ホムラガミ)をテーマにして作曲しました。
力強いオーケストラ系のサウンドに、縄文の人たちの畏怖の念を込めました。
<YouTubeで試聴>
⑥満天ノ星々~縄文ノ宇宙(ソラ)~
<解説>
縄文の夜のマツリ。
火の周りを囲んでの盛大なマツリが終わり、鎮火する頃には、空には一面の星空が広がっていたことでしょう。
今の時代よりも、ずっと清らかで澄んだ空気のおかげで、現代人が見上げるよりも、はるかに美しい満天の星空が広がっていたことと思います。
この曲は、縄文の人たちが見上げていたであろう、満天の星空をイメージして作りました。
草むらに寝転がって、父子で一緒に星を見上げたり、乳飲み子を抱いた母が、わが子に歌を聴かせながら、星を見つめていたかもしれません。
そんな、縄文の宇宙(ソラ)のロマンを、イメージしながら聴いてみて下さい。
楽曲は、ゆったりとしたテンポで、美しいメロディーラインにこだわって作った曲です。
伴奏には、キラキラときらめくようなイメージで、シンセサイザーのベル系の音も入れてみました。
<YouTubeで試聴>
⑦鳥浜ムラの子どもたち~風・ワラベ~
<解説>
縄文の子どもたちは、どんな感じだったのでしょうか?
もちろん、現代のようなゲームなどはなかった時代です。
大自然の中を駆け回ったり、草花を摘んだり、時には大人の狩りについて行って、一緒に獣を追いかけたりして楽しんでいたことでしょう。
縄文の子どもたちならではの遊びや、日々の楽しみもきっとあったに違いありません。
この曲では、三方五湖のほとり、縄文の鳥浜ムラで暮らす子どもたちの光景をイメージしながら作曲しました。
無邪気に野山を走り回り、風を友とし、鳥や獣とたわむれながら、夕刻には、沈んでいく真っ赤な夕日を眺め、大好きな家族が暮らすムラへと家路についたことでしょう。
そんな縄文の無垢な子どもたちをイメージしながら、聴いてみて下さい。
<YouTubeで試聴>
⑧縄文流転~イノチハメグル~
<解説>
若狭三方縄文博物館で印象に残った展示があります。
縄文人の寿命に関する展示です。
縄文人の寿命は、大体30代くらいだったようです。
現代からすると、とても短い寿命であり、それだけ長生きするのが大変だった時代です。
中でも、乳幼児や子供の死亡率は高く、大人に成長するまで生きながらえるのも大変だったようです。
縄文の人たちは、死と再生の思想=輪廻思想を持っていました。
縄文土器に見られる渦巻き模様が、そうした輪廻転生の思想を表しているかのようです。
短く限られた寿命だから、なおさら、転生への強い希望が込められていたのかもしれません。
この曲は、そんな縄文の輪廻思想をイメージして、作曲しました。
ホイッスル・ソロのシンプルなメロディーの中に、縄文の人々の輪廻の思い、生命の流転のイメージを込めました。
<YouTubeで試聴>
⑨感謝のイノリ~森・大地・湖の恵み~
<解説>
縄文の人たちは、自然と共生しながら暮らしていました。
春夏秋冬、それぞれの季節に様々な恩恵を大自然から頂きながら、豊かな精神文化=縄文文明を築いていきました。
その根底にあったのは、やはり、自然への畏怖と感謝の念ではないでしょうか。
三方五湖は、湖の周りに美しい森が広がり、山の幸と海の幸に恵まれ、縄文の人たちの食卓を、彩り豊かにしていたことでしょう。
自然と共生するには、やはり、自然への感謝の想いが欠かせないと思います。
この曲は、そんな縄文の人たちの、森・大地・湖といった大自然への感謝のイノリをイメージして作曲しました。
~自然と共生した縄文の人たち~
そこには、現代人が忘れてはならない、むしろ見習わなくてはいけないメッセージがあるように思います。
<YouTubeで試聴>
⑩水月湖讃歌~7万年の時空(トキ)をこえて~
<解説>
このアルバムの最後を飾る曲「水月湖讃歌~7万年の時空(トキ)をこえて~」。
この曲は、縄文からさらに時代を広げて、7万年に渡る年縞が湖底に眠る、水月湖へのロマンをテーマに作曲しました。
水月湖の年縞については、先述しましたが、年縞博物館で実物を目の前にすると、本当に圧倒される感じでした。
地球の凄さみたいなものを感じました。
その時に感じた、地球のはるかな歴史ロマン、壮大さ。
そして、その年縞が眠る、水月湖の湖面の美しさを曲に込めたいと思いました。
作曲では、オーケストラ系のサウンドを使用して、ダイナミックに、そして抒情的に描いていきました。
メインのメロディーは、雄大な水月湖を讃えるようなメロディーを。中間部では、美しき水月湖をイメージして、ゆったりと流れる水のようなメロディーラインにしました。クライマックスでは、力強くファンファーレ(トランペット系の音色)を鳴らし、壮大に楽曲を締めくくります。
ロマンあふれる蒼き湖・水月湖を、ぜひイメージしながら聴いてください。
<YouTubeで試聴>