<姫神・星吉昭さんの音楽~東北への憧憬>

⑦星吉昭さんの足跡をたずねて~岩手への旅Ⅲ

 

岩手旅の2日目、2008330日・日曜日の朝を迎えました。

この日の予定は、午前中は宿泊地の盛岡から電車で北へ向かい、“姫神”の名前の由来となった姫神山へ。午後は、星さんも野外コンサートをしたことがある、小岩井へ行く行程をたてました。

 

天気は快晴。岩手山の美しい姿がよく見えていました。

 

盛岡駅からは、IGRいわて銀河鉄道”という電車に乗りました。

JRから運営を引き継いだ第3セクター鉄道のようでしたが、賢治ゆかりの岩手らしい、素敵なネーミングだなと思いました。

 

電車に乗り、目的地の好摩(こうま)という駅を目指します。

車窓からは、穏やかな日差しと、のどかな田園風景が見えていました。

 

行程としては、好摩駅で下車して東の方へ歩き、姫神山の山麓を歩きながら、一駅手前の渋民駅へ向かい、そこから再び盛岡へ戻るという予定を立てました。

 

好摩駅で降りると、駅の周りはちょっとした住宅地でした。

そこから少し歩いて、県道に出てみました。

 

方角で言うと東の方角に、美しい三角の稜線が見えました。

「あれが、姫神山だ!」

すぐにわかりました。

 

そう、星吉昭さんが、自身の音楽にその名をとった山、姫神山とついに対面しました。

 

左右がきれいに対象となった三角形の山、実に優美な姿でした。

太古の人々が、女神が住む山と考えたのも納得できます。

 

逆に反対の方角、西の方には、雪をいただいた雄大な岩手山の姿が見えました。

 

僕は県道に沿って、姫神山の方へ歩き始めました。

 

“姫神せんせいしょん”として活動を始めた頃の星さんも、もしかしたら、この辺りを歩いていたかも…と想像しながら歩くのは、楽しかったです。

(デビュー当初の、星さんが駆け出しの頃。アルバム『奥の細道』などの頃は、実際に姫神山麓のプレハブ小屋で創作活動をされておられたそうです)

 

好摩口というT字路で右折した僕は、姫神山麓を南に向けて歩き続けました。

辺りは、のどかな田園風景が広がっています。

 

右手には雪の岩手山が、さっきよりもよく見え、その美しい見事な山容を拝むことができました。

 

時折、道(奥州街道)を離れ、田園の畦道の方へ下りては、しばらくたたずみ、周りの風景を楽しみました。

 

姫神山麓の広大な田園地帯の中でたたずみながら、自然と姫神作品のメロディーを口ずさんでいました。

この時、ふっと湧いてきたのは、アルバム『風土記』の曲「翼」のメロディーでした。

 

雄大な景色を眺め、姫神ワールド発祥の地を味わうことができました。

(もし今だったら、笛を吹いていただろうなと思います)

 

田園地帯をさらに南へ歩いて行くと、とても興味深い名前の建物に出くわしました。

 

その名も、“姫神ホール”。

中に入ってみると、よくある、公共図書館と文化ホールが一体となった、公共の文化施設のようでした。

 

星吉昭さんの“姫神”と、なにか関連があるのかな?と一瞬思ったのですが、特にそういうわけでもなく、こちらも“姫神山”の名から取った建物のようでした。

 

姫神ホールの中の、渋民図書館で少し休憩することにしました。

ずっと歩いてきたので、館内の椅子に腰かけて足を休ませながら、新聞や本を読んだりしました。

 

館内に入った際、カウンターの司書の女性職員の方が「こんにちは」と挨拶してくれましたので、挨拶を返しました。

「まさか、挨拶した来館者が大阪の人だとは、きっと思ってはいないだろうな…。」と心の中で思いつつ。

 

渋民図書館は、さすが石川啄木の地元なだけあって、落ち着いた良い図書館でした。

図書館で足を休ませた後、再び姫神山麓の散策を始めました。

 

道をさらに進み、野山の風景を楽しんだ後、いわて銀河鉄道線の渋民駅を目指しました。

しばらく歩き、マップでは、もうそろそろ線路が見えてもおかしくはない辺りに来ていました。

 

それらしき駅や線路が見えなかったので、自転車で通りかかったご婦人にたずねてみました。

「あぁ、駅だったら、そごの道さ、左に曲がって~…」

バリバリの東北訛りでしたが、駅の場所が理解でき、お礼を言って駅の方へ向かいました。

 

やはり、方言を耳にすると、今自分はそこの地方にいるんだという実感を強く得られますね。

生のネイティブの東北弁を聞けて、なんだか嬉しく思いました。

(逆に、関西以外の地方の方が大阪環状線に乗って、乗客がみんな大阪弁をしゃべっているのを聞いて、新鮮に感じたという話も聞いたことがあります…)

 

渋民駅から電車に乗って盛岡駅に戻った僕は、駅前のバス停から、小岩井農場行きのバスに乗りました。

 

この日の旅の後半の目的地が、岩手山麓にある有名な小岩井農場でした。

 

小岩井農場では、1996年に、宮沢賢治生誕100年を記念した、姫神コンサートが開催されたそうです。

その時の映像が、1997年放映の『報道特集』の“姫神特集”で少し紹介され、印象に残っていました。

 

雨が降る小岩井農場の野外ステージ。

アルバム『イーハトーヴォ日高見』より、「つめ草のあかり~あのイーハトーヴォのすきとほった風」の生演奏をバックに、役者さんが扮する宮沢賢治が東北訛りで「雨ニモ負ケズ」を朗読していました。

 

そんな、星吉昭さんと宮沢賢治ゆかりの地であり、姫神コンサートの舞台となった小岩井農場を、この目で見てみたいと思いました。

 

小岩井農場は、盛岡駅からは北西の方角、岩手山の麓にあります。

盛岡駅からバスに乗り、市街地をぬけて、のどかな田園地帯を走り30分ほどで到着しました。

 

小岩井農場に着くと、その広大さと、目の前の岩手山の雄大な光景に感銘を受けました。

本当に素晴らしいところでした。宮沢賢治のお気に入りの場所だったというのも、うなずけます。

 

園内マップを見ながら、ゆっくりと散策することにしました。

広大な農場を歩きながら、資料館や牛舎などを見学し、草原に囲まれた農道を歩いて、“小岩井農場の一本桜”の方まで足を延ばしました。

 

季節的に桜はまだ咲いておらず、草原も緑というわけではありませんでしたが、所々、白い雪が残っており牧歌的な風景と雰囲気を堪能できました。

 

桜が咲く頃や新緑が芽吹く頃には、さぞかし、美しい光景だろうなと思いました。

 

星さんもきっと愛しておられたであろう、小岩井の自然。

姫神ゆかりの地を、またひとつ味わうことができました。

 

結局、小岩井農場には夕方近くまで滞在し、その後再びバスに乗って盛岡駅に戻り、ホテルへと帰りました。

 

 

星吉昭さんの足跡をたずねて~岩手への旅Ⅳにつづく>