◎宗次郎アルバム第22作『土の笛のアヴェ・マリア』レビュー

宗次郎オリジナルアルバム第22

『土の笛のアヴェ・マリア』

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Ave Mariaをモチーフに、愛の歌・平和への祈りをテーマにした作品。欧風モチーフのアルバムの最高傑作。 

 

発売日:2007.8.1(販売元:ユニバーサルミュージック/発売元:風音工房)

 

プロデュース:宗次郎

作曲:宗次郎(except 9

編曲:小川十三(①)、武沢侑昂(②④⑤⑥⑦⑧⑪)、宗次郎(③)、斎藤順(⑨)、大塚彩子(⑩)

 

 

<レビュー>

①土の笛のアヴェ・マリア(小川十三編曲)

 この曲のイメージを感じで表すとしたら“祈”。

 ハープの音が印象的な前奏・イントロに続いて、教会音楽・ミサ曲を思わせる厳粛で気高いメロディーをオカリナが奏で、やがてオーケストラ・サウンドが荘厳な祈りの世界を展開し、雄大なサウンドを繰り広げる…。

 これはまさに、宗次郎さん流の教会音楽と言っていい傑作である。

 宗次郎さんは、このアルバムに先立って、数年前の2001年に『オカリナ・エチュード4~チャーチ~』を発表し、この作品で様々な教会音楽や讃美歌を取り上げてカバー演奏されたのだが、その時の表現を昇華させ、崇高な次元へと進化させている。

 アヴェ・マリアと言えば、グノーシューベルトの曲が有名で、宗次郎さんも過去にカバー演奏されておられるが、この曲「土の笛のアヴェ・マリア」は、宗次郎さん自身による完全オリジナルの「アヴェ・マリア」であり、新たに生み出された「アヴェ・マリア」の名曲と言える。

 クラシック曲や教会音楽が好きな方にも、ぜひお薦めしたい作品。

 

②朝もやの中から(武沢侑昂編曲)

 この曲のイメージを漢字で表すと“幻”。

 イントロのベル系のシンセサイザーの音(キラキラとした感じの音)が印象的。そこからのストリングス系(バイオリン類の弦楽器アンサンブル)の音色を使ったアレンジ・編曲が美しい。

 オカリナによる主旋律は、5音音階(ドレミソラなどの5音から成る音階)を基調とした神秘性をたたえたメロディーライン。夜明けの時間帯で、まだ日が昇っていない、朝もや・朝霧に包まれた森の情景を見ているかのような、幻想性を感じさせる作品。

 

③土の詩・デュエット(宗次郎編曲)

 オカリナによる多重録音の作品。

 同様のスタイルの曲としては、アルバム『木道』の「大地に生きる」や、アルバム『光の国・木かげの花』の「土に還る日」などがあるが、それらの曲と比べると、この曲は動きのあるメロディーラインの曲となっている。

 また、旋律自体も欧風な雰囲気があり、このアルバムのテーマ性にあわせて作られた曲と思われる。

 オカリナ本来の音色の美しさを、じっくりと味わうことができる作品と言える。

 

④光りの朝(武沢侑昂編曲)

 この曲のイメージを漢字で表すと“光”。

 タイトルのイメージ通りの、さわやかで光り輝くような美しい曲。朝にこの曲を聴けば、とても清々しい気持ちで1日をスタートできそう。

 澄んだオカリナの音色は、朝の光りのイメージにピッタリで、美しいメロディーラインを最大限に活かしたアレンジも秀逸。

 前半は、包み込むようなパッド系(フワ~とした感じ)の音が効果的で、後半にはソフトな感じの打ち込みリズム(シンセサイザーのドラムの音によるリズム)が入る。

 朝の光りの中で目を覚ました森の生き物たちが、活動を始めていく…といった情景が目に浮かんでくる。

 この4曲目の「光りの朝」から8曲目「至福の海」に至るまでの流れは、さわやか系の宗次郎さんの音色を、まさに凝縮した感がある。高いクオリティーを誇り、傑作・良曲の連続となっている。

 

⑤夢の扉(武沢侑昂編曲)

 この曲のイメージを漢字で表すと“希望”。

 どこまでも広大な大空を連想させるような、伸びやかで雄大なメロディーの傑作。アレンジも、広がりを感じさせる美しいアレンジで、聴き応え抜群。

 爽やかであたたかな、光あふれる春のような、希望に満ちた曲想の作品。

 ソプラノC管(高音管)による、宗次郎さんのオカリナの高く澄んだ伸びやかな音色を、存分に味わうことができる作品。

 初めてこの曲を聴いた際、神々しいほどの美しさに大いに感動したのを覚えている。

 

Cosmos Children(武沢侑昂編曲、ヴォイスアレンジ:河井英里)

・ヴォイス:河井英里

 アニメソングやCM曲などで活躍された、シンガー・作曲家の河井英里さんがヴォイス&ヴォイスアレンジで参加。宗次郎さんと河井英里さんは、この曲が初顔合わせとなったものと思われるが、とてもユニークで興味深い、独特な音世界が展開されている。

 河井英里さんは、このアルバム『土の笛のアヴェ・マリア』発表の翌年、2008年に43歳の若さでお亡くなりになったそうだ。

 宗次郎さんのオカリナと河井さんのヴォイスの組み合わせは、非常に独創的と言えるだけに、この曲は貴重な作品と言えるかもしれない。

 曲の構成は、ゆったりとした3拍子系のメロディーの、宗次郎さんのオカリナがメインの前半部と、河井英里さんのヴォイスが大活躍する、躍動的な後半部の、大きく二つの部分に分けられる。特に後半は、声を巧みに使った癒し系音楽で知られる、アディエマスを彷彿とさせるようなダイナミックなアレンジとなっており、大変聴き応えがある。

 

⑦始まりの歌(武沢侑昂編曲)

 アコースティック・ギターを使った伴奏のアレンジが印象的。哀愁をたたえたメロディーにピッタリはまっている。

 間奏部のアレンジが洗練された雰囲気でかっこいい。

 全体的には、宗次郎さんの作品によくあるタイプのメロディーと曲調だが、前後の4・5・6・8曲目が長調の“さわやか系”“バラード系”の曲調なので、それらに挿まれたこの短調の曲は、アルバムを通して聴いた際、スパイス的な役目を果たしていると言える。(一般的に、長調の曲は明るい、短調の曲は哀しいというイメージを持たれる)

 また、曲のエンディング(終焉部)の所に入る、海の波のSE(シンセ音と思われる)が、次の曲への伏線と見る(聴く)ことができる。

 

⑧至福の海(武沢侑昂編曲)

 この曲のイメージを漢字で表すと“愛”。

 全ての宗次郎さんの作品を通しても、一二を争う美しさを誇る傑作。どこまでも深遠な“愛”を感じさせる名曲。個人的にも大のお気に入り。

 イントロ・前奏部のフルートのメロディーからしても、至高のクオリティーを感じさせるが、宗次郎さん作曲の主旋律の美しさは、他の曲から群を抜いて、透明感や優美さを有しており素晴らしい。

 宗次郎さんのバラード系の曲では、この曲が最高峰だと思っている。

 また、イントロ&間奏部で印象的なフルートの音色だが、宗次郎さんのアルバムでフルートが入るのは大変珍しく、オカリナソプラノ管(高音管)の音色と、見事な対比となっている。そういう意味でも貴重な曲であり、秀逸なアレンジであると言える。

 ちなみに、201512月の大阪・枚方公演(オカリナ生活40周年コンサート)を聴きに行った際は、フルートの代わりに南米アンデスの笛・ケーナを使ったアレンジで演奏され、これまた素晴らしく、感動的な演奏だったのを覚えている。(こちらの記事参照宗次郎さんの音楽との出会い~そして、素晴らしき音楽の世界へ・第10話)

 “海”がモチーフの曲だが、すべての生命を育んできた、母なる海への賛歌として聴くことができる。

 

Ave Maria(カッチーニ)(斎藤順編曲)

 このアルバムで唯一のカバー曲。アルバムの中でも、最もクラシカルな美をたたえた曲。

 カッチーニはイタリア・バロック音楽の作曲家で、この伴奏のアレンジも、バロック曲を思わせる、弦楽主体の編曲となっている。

 ちなみに、調べたところ、この曲の実際の作曲者は、ロシアの音楽家クラディミール・ヴァヴィロフで、1970年ごろに作った曲らしい。となると、カッチーニのアヴェ・マリアという曲名自体、嘘だったことになるらしい。(詳しくはこちらを参照http://www.worldfolksong.com/classical/famous/caccini-ave-maria.html

 とは言え、至高の美しさを感じさせるメロディーに、世界中の人々が癒されているわけなので、彼の嘘も、マリア様は赦して下さるかも…。

 いずれにせよ、3大アヴェ・マリアの一つとして知られているわけだが、個人的な感想として、グノーとシューベルトのアヴェ・マリアが優しさを感じさせるのに対し、「カッチーニのアヴェ・マリア」は、悲しみの聖母を連想させる。

 

Kiitos(大塚彩子編曲)

 kiitos(キートス)は、フィンランド語で「ありがとう」の意味。

 欧風モチーフの宗次郎さんのアルバムや曲において、度々取り上げられている、北欧の国フィンランド。宗次郎さんは、本当に、心からフィンランドのことを愛しておられるのだなあと思う。

 このアルバムの他の曲とは少し趣きが異なり、「Kiitos」は民族音楽的なメロディーライン、アレンジとなっている。

 美しいメロディーが印象的だが、これまでも、数多くの宗次郎さんの曲のアレンジを手がけてこられた、大塚彩子さんによるアレンジも秀逸。ハープの音色とオカリナの、素晴らしいアンサンブルが楽しめる。

 

⑪土の笛~reprise~(武沢侑昂編曲)

 1曲目「土の笛のアヴェ・マリア」の別アレンジバージョン。1曲目はオーケストラ的な、壮大なアレンジだったが、この11曲目は、アコースティック・ギターとオカリナのデュオで、非常にシンプルかつ繊細なアレンジとなっている。

 いずれにせよ、美しく“祈り”を感じさせるメロディーが素晴らしく、シンプルなアレンジだけに、そのメロディーとオカリナの音色を、より深く味わうことができる。

 いいメロディーの音楽は、どんなアレンジでも、素晴らしい音楽になりうると言える。

 

 

<総評>

 CDの解説書によると、『イアイライケレ』の制作が終わった頃から、“Ave Maria”をモチーフにした作品の制作に取りかかり、宗次郎さんが長年温めてきたテーマの作品であることが紹介されている。

 実に、足かけ約5年の月日を経て完成された、大傑作アルバム。

 宗次郎さんの全作品の中で、欧風モチーフのアルバムとしては、最高傑作と言えるクオリティーとなっている。

 メロディーや曲調の美しさ、オカリナ演奏も含め、宗次郎さんの音楽性が円熟の域に達し、完成度が今までの作品を越えて、より高いものとなっている。

 実際、この『土の笛のアヴェ・マリア』以降、『オカリーナの森から』『古~いにしえみち~道』『オカリーナの森からⅡ』に至るまで、全てのアルバムが最高傑作と言えるクオリティーを誇っており、円熟期に達した宗次郎さんによる、最高傑作アルバム四天王と位置付けている。

 その一角である『土の笛のアヴェ・マリア』。

 アヴェ・マリアの名曲「カッチーニのアヴェ・マリア」のカバー演奏も収録されてはいるが、アルバム全体を通して見ると、キリスト教の音楽や世界観に捉われることなく、自由なスタイルで、宗次郎さん流の“聖歌・アンセム”として描かれている。

 アルバムを通して、“愛”、“平和”、“祈り”といったテーマ性が貫かれており、それを、宗次郎さんのオカリナ・サウンド最大の持ち味である、透明感を存分に活かして体現されている。

 中でも、「光りの朝」「夢の扉」「至福の海」は、群を抜いて美しい作品となっており、“さわやか系”作風の曲として、これ以上ないほどの傑作となっている。

 欧風なテーマによる宗次郎さんのアルバムとしては、『天空のオリオン』と並んで、双璧をなしていると言える。

 世間的には、“宗次郎さんの曲やアルバム=日本的な雰囲気の作品”という、割とステレオタイプ的なイメージを持たれがちだが、ぜひ、この作品も味わっていただいて、宗次郎さんの音楽の幅広さを感じていただければと思う。

 

 

☆宗次郎さんのYouTubeチャンネルより(公式動画)

「土の笛のアヴェ・マリア」(1曲目)

 

 

☆以下のサイトで、全曲試聴ができます。

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